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​津和野城跡
 元寇をきっかけに築かれた津和野城。山頂には、石垣の跡が今も残ります。

 
  「どうしてこんなところに町が、、」津和野を訪れる人は、だれもがそんな驚きをもつのではないでしょうか。山あいに埋もれるようにしてある小さな町。
 城跡から見下ろす津和野の町は、まるで箱庭のようです。

 町の大通りである殿町通りには、藩校養老館があります。養老館では、当時の面影を遺した槍術教場や剣術教場の他、『御書物蔵』と呼ばれる土蔵を見学することができます。

 さて、津和野で生まれ、8歳まで育った森鴎外は、この養老館に通っていました。
 鷗外の生家から養老館までは、田んぼや川を横切り、紙漉きの家や商家を抜けていく道だったようです。風呂敷に勉強道具を包み、竹刀を携えた少年鴎外、、。そう思い浮かべると大文豪森鴎外もなんだか可愛いく感じられます。

◆ニュータイプ現る瞬間を描く物語!?
 今回は、森鴎外の歴史もの短編から、『護持院原の敵討』をご紹介したいと思います。新しい価値観をもった人間が立ち現れる瞬間と、時間をかけて磨かれた文化(武家社会)の美しさが同時に描かれていて、現代にも通じる魅力を持った作品だと思いました。
​ 『護持院原の敵討』

​ 父親を強盗に殺された19歳の青年宇平は、叔父と家来との3人で、父の敵討ちに旅立ちます。
 それは、どこにいるかわからない敵を探して行脚する苦難の旅でした。
 
​ 長旅の捜索にもかかわらず、なかなか敵と出会えないことから、宇平は精神に変調をきたしてしまうほど追い詰められてしまいます。そして、同行する助太刀役の叔父九右衛門の泰然とした態度を不信に思った宇平は、「散々歩き回って探しても出会えないのに、
どうして平気な顔をしているのか。」と九右衛門に尋ねます。
 「神仏の加護があれば敵にはいつか逢われる。歩いて行き合うかも知れぬが、寝ている所へ来るかも知れぬ。」というのが九右衛門の答え。

以下、二人の間にこんなやりとりが続きます。
 「おじさん。あなたは神や仏が本当に助けてくれるものだと思っていますか。」
 「うん。それは分からん。分からんのが神仏だ」
 「そうでしょう。神仏は分からぬものです。実は、私は、もう今までしたような事を罷めて、私の勝手にしようかと思っています」

宇平はその言葉を最後にプッツリと姿を消してしまいます。

 その後、九右衛門文吉(家来)りよ(宇平の姉)は、神仏のお告げによって、江戸に敵をみつけ、敵討ちを果たします。見事、敵を討ったことで、りよが婿取りをして家名は復活を遂げます。役目を終えた九右衛門と文吉には、それぞれに褒章や役職が与えられ、彼らは侍社会にしっかりと紐づけられて物語は幕を閉じます。

 家名の存続が、敵討ちの首尾と抜き差しならない関係にある中で、見つかるあてのない仇を探す旅路。そんな道のりの中、九右衛門が平気な顔でいられたのはなぜでしょう。
 
 九右衛門のいう”神仏を信じる”とは、、?
 
 その謎を解く鍵は、津和野の城跡から見下ろす箱庭のような町の眺めに隠されていると思いました。山頂から、自分の町や隣の集落が点在する姿を見渡したなら、自分を含めた沢山の人々が右往左往する姿が眼下に小さく見えるでしょう。その時、”自分”を役割をもった小さな存在と感じると思います。いわば、パズルの”ひとかけら”である自分、、。箱庭の中で生きるちっぽけな自分を、確かに見ていてくれる存在が九右衛門のいう”神仏”なのでしょう。
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 ~津和野美味しいもの~

 城下町津和野には美味しいお菓子とお茶があります。
 芋煮やうずめめしといった山間の郷土料理も魅力的です。
​ 自動車で1時間ほどで日本海に出ます。そこには、新鮮な海の幸が待っています。

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​【うずめめし】 ご飯の下に野菜や鯛の身が隠されています。
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【芋煮】 柚子の香りがポイントの上品な味付け。
​【海鮮丼】 津和野から車で1時間ちょっと走るとそこは日本海です。新鮮な魚介が食べれます。
 
 
 物語では、その後の行方について一切触れられることのない宇平ですが、その言い分はといういうと、、

 『亀蔵は憎い奴ですから、若し出合ったら、ひどい目に逢わせて遣ります。だが捜すのも待つのも駄目ですから、出合うまではあいつの事なんか考えずにいます。わたしは晴がましい敵討をしようとは思いませんから、助太刀もいりません。敵が知れれば知れる時知れるのですから、見識人もいりません。文吉はこれからあなたの家来にしてお使下さいまし。わたしは近い内にお暇をいたす積です。』
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どうですか?これはこれで筋が通った考えのような気がします。神仏がいて、会うべき時に会うのなら、探し回らずともいいはずです。
 宇平は、晴れがましい敵討ちと家名の存続が一体になった侍の世界を捨てると宣言しています。
 普段は、些細なことを強く感じて興奮しやすい気質の宇平が、この時は、不思議に落ち着いて、自分の考えを述べます。そんな宇平の態度に、九右衛門は無気味さを感じます。

 動じやすい宇平が、自分の考えにたどり着いて、平気な顔ができたのは、彼もまた、少し高いいただきに登れたからかではないでしょうか。
 武家の世界とは違う世界で生きることを選んだ宇平。もちろん、九右衛門と宇平が見ている景色は違うでしょう。

 もし、この二人が再会したらどんな言葉を交わすのか、、。読み終えて、そんな興味が沸きました!

 
 さて、そんな津和野に実は素敵なブックカフェがあるのです!

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​ブックカフェ 糧(かて)さん

 津和野から車を走らせること15分くらい?
 テーマは医食同源。古い病院を改装した素敵な空間でした。
野菜たっぷりのビュッフェランチ!
食に関する本を中心に本のコーナーがありました。
​ お読みいただきありがとうございました。


 『護持院原の敵討』は青空文庫で全文が読めます。
 物語の最後は、武家世界の様々な形式美が感じられて清々しい美しさがあります。
 鴎外にとって、去り行く武家世界は愛着深いものであったのかもしれません。
そんな鴎外を感じながら、津和野の町をお散歩するのは、おすすめです。ぜひ津和野城にも!
 

 敵討ちの場に、女の
りよが、果敢に登場したのも面白いと思いました。鴎外の小説に登場する、強く勇気ある女性に憧れます。

 次回は、
城下町遠野の旅を載せる予定です。
 
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​澄んだ味わいの津和野茶、とても美味しかったです!
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