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翼文庫
Little Hiyori and Tyobi
【前回までのお話】
弱った子猫を見かけた日から、子猫のことが気になって仕方がない女の子。
子猫が死んでしまっているのかどうか心配でたまりません。天国があるのかどうかも気になり始めた女の子は、本で調べてみることに。そして路地裏に一軒の不思議な図書館を見つけるのでした。少しぶっきらぼうな男の子が渡してくれた絵本は、偶然にも子猫の冒険のお話でした。
なんだか少しほっとした女の子でしたが、家に帰ると今度はお姉さんから「天国や地獄が出てくる話よ」と言われて、怖い絵の表紙をした本を渡されます。
女の子はお姉さんから渡された絵本の表紙をじっとみつめました。男の人が苦しそうな顔をしたゾッとするような絵です。
そして、本をくれた時のお姉さんの親切な声を思い出しました。
でも女の子はやっぱり怖くなりました。
そして恐る恐る本を開きました、、、。
『ある日のことでございます。お釈迦様は極楽の蓮池のふちを・・
WON WON!!
チョビが前足を女の子の上にのせ吠えています。
女の子は大急ぎで支度をしました。どうしても小さな図書館にいかなければいけないと思いました。
女の子は、また、子猫が入って行った側溝をのぞき込んでいました。じっと目を凝らすと暗闇がますます暗くなるようでまるでその先にとても恐ろしい世界があるような気がするのでした。じっと見つめていると中からユラユラとうごめきながら小さな生き物が女の子の方にむかってゆっくりゆっくり近づいて来ました。
女の子は身体がまるで石みたいに重くなったのを感じました。
確か、、、この角を曲がって曲がって曲がってあった!
「紙芝居?」
見ると小さなボードの上に
紙芝居「子猫」
場所 芝生の上
時間 鐘が鳴ったら
と書いてあります。
(子猫!)
女の子は少しびっくりしました。
庭にまわると芝生の上にテントが張ってありました。
その中に木製の紙芝居台が置いてあります。
テントの横でケヤキの木が涼しげな木陰を作っていました。
小さな子供も大きな子供も好きな場所に座っています。テラスの上にはこの間の男の子が座っていました。
「そんなに息を切らしてどうしたの?」
中から昨日と同じ女の人が出てきました。
「紙芝居はまだよ?」
玄関先に立てかけてある小さな看板をさして女の人は言いました。
女の人が大きな鐘をカランカランと鳴らしました。
そこまで読むとお姉さんはみんなをじっと見つめました。
「それからどうなったの」「子猫は生まれ変わりなの?」
子供たちが聞きました。
「チビは親戚の家にもらわれていきました。」
「その夏ミケは二回目の出産をしました。子猫は4匹生まれました。4匹の子猫はそれぞれ性格が違いました。
のんびり屋の太郎、用心深い次郎、、、。
そしてそれぞれ遠くのお屋敷、通りの氷屋さん、ご隠居さん家に貰われていきました。」
「お話はおしまい?」
あっけにとられたように一人の子供が聞きました。
しばらくの間女の人はだまっていました。
子供たちは真剣にみつめています。
「先生は思いました。子猫に抱くように温かな感情を人に対しても持ちたい。だけどそれは難しいことだ。人は人として、ただ親しみ尊び恐れはばかり憎むしかないのだと」
女の人はそういうと、また大きな鐘を思いっきり鳴らしました。
キツネにつまれたようになったマゴマゴしていた子供たちは鐘の音を合図にザワザワと散らばりはじめました。
芝生の上に取り残された女の子の上にケヤキの梢から漏れるおひさまの光が降りかかっていました。
このお話の中で紹介した本
『こねこのぴっち』ハンス・フィッシャー
ハンス・フィッシャーはスイスの画家です49年の生涯に6冊の素敵な絵本を作りました。
好奇心いっぱいの小さなぴっちの大冒険のお話です。
『蜘蛛の糸』芥川龍之介
地獄に落ちた犍陀多が一本の糸をたよりに天国へと昇り始めますが、、。
芥川龍之介は東京で生まれ育ちました。35年の生涯の中でたくさんの面白いお話を書きました。
『子猫』寺田寅彦
寺田寅彦は物理学の研究者。57年の生涯の間に科学と文学を調和させた多くの随筆を書きました。
『子猫』は大正11年雑誌「女性」に掲載されました。
『こねこのぴっち』
ハンス・フィッシャー (著),
石井 桃子 (翻訳)
岩波書店
『蜘蛛の糸』
芥川龍之介 (著),
遠山 繁年 絵
偕成社
お読みいただきありがとうございました!
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