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​大きな街から小さな街へ引っ越した女の子は、お友達と離れて心の中の翼が折れたような気持ちでいました。
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 秋晴れのある日、女の子はチョビを連れて河川敷まで散歩に行きました。 
 すると子犬が芝生の上を走り廻っています。
よくみるとそれは子どものイノシシでした。
 
 迷子のウリ坊がひとりぼっちで河川敷を走りまわっているのでした。
 タッタッタッ…ウリ坊はドンドン近づいて来ました。
 チョビと女の子は思わず身構えました。
ウリ坊は、ピタッと二人の前で止まりました。
『お母さんや兄弟とはぐれてしまった、、あぁ、お腹がペコペコだ。』
『もしかして仲間じゃないかしら、、でもなんだか違うような』
 
ウリ坊はくるりと向きを変えると走って行きました​。
 
 
するとチョビが、ウリ坊を追って走り出しました。
​リードを握っていた女の子もチョビに続いて山の奥へ奥へ奥へ!

どのくらい山奥に入ったでしょうか、目の前に、西洋風の家があらわれました。
 

RESTAURANT
WILDDOOK HOUSE
山犬軒

 看板を見るとどうやらレストランのようです。​

 
 クンクン臭いをかぎながら中へ入っていくチョビを見て女の子は慌てて
「チョビ!」と叫びました。
しばらくするとチョビはバケツをくわえて戻ってきました。
​バケツの底には​火箸と「北側の林に行って栗をとってきてください。台所で待っています」というメモが入っていました。
 
 家の北側に行くと確かに栗林が、、。木にはまだ緑色の栗の実が沢山なっていました。​
 地面をみると茶色の栗の実がたくさん落ちていました。
 でも殻には棘がたくさんあります。​女の子は、火箸を使ってなんとかバケツに集めていきました。
​ チョビも殻から外れた栗をくわえてはバケツへ入れました。
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 栗を持って台所に戻るとエプロンをつけた大きなシロサギが待ち構えていました。
 
 シロサギは上手に嘴(くちばし)を使って美味しそうなシチューを混ぜています。
 女の子は、シロサギは片方の羽がダランと下がっていることに気づきました。どうやら怪我をしているようです。
『羽が!』
女の子が心配そうにいいました。
シロサギは暗い表情でうなだれました。
そして、餌をとろうとして羽を片方怪我をしたこと、仲間のところに戻ることができずにこの山犬軒というレストランで料理長をしていることを悲しそうに話しました。
『もう自分で餌をとることができない。仲間のところに戻ることはできない』
そういうとポタポタと涙をこぼしました。
『この山奥でひとりぼっちなんて、、』
​女の子は胸がきゅっと痛くなりました。

​【栗のパウンドケーキ】

市販のパウンドケーキのもと
オリーブ油
​栗の甘煮
干しブドウ
​洋酒
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市販のパウンドケーキのもとに
砂糖を加えて甘く煮た栗と干しブドウを入れて焼きました。
 洋酒で香りづけ栗の風味とドライフルーツの酸味のハーモニーが美味しい一品。
​ 甘いケーキです。
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​ それでも、バケツの栗を見るとシロサギは満足そうに微笑みました。
 真剣な様子でシチューの味見をすると
 『今度は西の畑の渋柿をとってきてください。バケツにいっぱい』
​と言いました。
 女の子はシラサギが少し元気になったのを見てホッとしました。
 女の子とチョビが西側の畑に行くと、確かに渋柿の大きな木がありました。でも大きすぎて、とても手が届きそうにありません。
​ 女の子は木に足をかけ、枝をつかむと柿の木にのぼりました。
​ 柿をもいで下に落とすとチョビが受けっとってバケツに入れました。
 木から降りてみると手足のあちこちにすり傷がヒリヒリと痛みました。
​ バケツいっぱいの柿の実を見てシロサギはまた満足そうに微笑んで
『これで美味しい干し柿ができる』
​と言いいました。
 シロサギの羽は相変わらずダランと下がっています。シラサギが移動するたびにブランブランと重そうに揺れています。
 シロサギも困っているようです。
​女の子は、バンダナをシラサギの肩からかけて動かない方の羽を吊ってあげました。
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干し柿​チーズ巻き
 干し柿を包丁で開き、チーズを巻きます。​輪切りにします。
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 バンダナの包帯のおかげでシラサギは動きやすそうです。
​それに白い身体に赤いバンダナがよく似合っていました。シロサギはすっかり元気な声で
『今度は東の畑で紫蘇の実のついた枝をたくさんとってきてくださいよ』
​と言いました。
 東の畑はレモングラスやミントやローズマリーで囲んだ小さな畑いっぱいに紫蘇やタイム、セロリが生えていました。良い香りが女の子を包みました。
 紫蘇の枝の先をハサミでチョキンチョキンと切りました。
​畑からかえる途中にとがった雑草の種がチクチクと女の子の肌を刺しました。
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​紫蘇の実の佃煮
紫蘇の実
干しエビ
麺つゆ
醤油
​ごま油
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 チョビも女の子もたくさん働いてお腹はペコペコです。
今度は何を言われるのか、もうくたびれてしまって動けそうもありません。
シロサギは台所で忙しそうにしています。
『ご苦労さまでした。お料理が出来上がるまで、2階の図書室に面白い本がたくさん用意してございます。ゆっくりとお過ごしください。』
​ 女の子はホッとして、2階にあがってみました。
たくさんの本と寝そべるのにちょうどいい炬燵がありました。
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​ 本棚は絵本や、美しい画集、世界中の文学全集、図鑑やミステリーなど、、棚ごとに綺麗に整理されて並べてありました。
 女の子は、手足が痛いのも疲れたのも忘れて夢中になって面白い本を読みました。
 本を読む時間は本当に安心できて楽しいものでした。
​ 本を読み終わってウトウトしていると、一階からとてもいい匂いがしてきました。そぉっと階段を降りてみるとテーブルの上にはたくさんの料理が、暖炉には赤々と温かそうな炎が燃えています。
​ シロサギは果物が入ったボールをいそいそと運んでいます。
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シロサギの料理長はエプロンを脱いで蝶ネクタイをしていました。
テーブルの上の料理を眺めては、お皿やフォーク、ナプキンのチェックに余念がありません。
 女の子を見つけると得意そうに特製メニューの紹介を始めました。
 『キノコのクリームシチュー、揚げ栗、半熟卵、燻製のハム、干し柿、葛ジュース​、菊芋と甘柿のサラダ...』
続けて、どれほどアケビやキノコを探すのに苦労したか、卵は鶏のピッピが今朝産んだものであることなどについて話し始めました。
​ 女の子のお腹がぐぅう~と大きな音をたてて鳴りました。
 その時玄関で呼び鈴の音がしたかと思うと数羽のシロサギがどやどやと入ってきました。
​ どうやらお客さんは女の子とチョビだけではないようです。
 鳥たちは、空から見た街の様子や餌をとる時の失敗などを面白おかしく話しながらご馳走を美味しそうにつつき合っています。
 仲間の鳥たちに給仕しながらシロサギの料理長はとても嬉しそうにしていました。​
 ​女の子はシロサギの料理長がこっそりバンダナで目をぬぐうのに気づきました。
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 どのご馳走もたいそう美味しいものでした。
ただ一つだけ気になることがありました。
 ”この燻製のハムまさかあのウリ坊の兄弟とかじゃないかしら?”
 そう思うと女の子はなかなか口にすることができません。
『このハムはうちで飼っていた豚ですよ』
​シロサギが言いました。
 
『遠慮せずに召し上がれ。さぁさぁ葛のジュースも美味しいですよ。』
 
『葛のジュース?』
​女の子は不思議そうに言いました。
シロサギは黄色く濁った液体をコップに注ぎました。​女の子は思い切って口をつけました。
​酸っぱくて甘くてなぜだか懐かしいような味がしました。
​ 葛の花ってどんな花だろう?女の子は思いました。
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​『すっかり遅くなってしまった。さぁ帰らなきゃ』
『さぁこれを持って』
そう言ってシロサギは、青い実でできた灯りを女の子に渡しました。
 食堂ではまだ鳥たちが楽しそうにおしゃべりしながら食事を楽しんでいます。
 玄関からでるとチョビと女の子は来た道を駆け下りていきました。
​ 栗林の中にイノシシの親子が見えました。きっと栗の実を食べているのに違いありません。
 女の子は”山犬軒”の方を振り返りました。
​ もう藪の影になって”山犬軒”はみえませんでした。
​ 空には白くて大きな月がのぼりはじめていました。
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 本の紹介など
​宮沢賢治
「注文の多い料理店」都会の二人の紳士が山の中に見つけた”山猫軒”。どなたでもお入りくださいと書かれた看板を見て何か美味しい物でも食べれるか、と足を踏み込んだものの、、次々に奇妙な指示が出されて、、
「フランドン農学校の豚」死亡承諾書に印を強いられる豚。農学校で飼われる豚の苦悩を描いた物語。
「なめとこ村の熊」熊撃ちの達人小十郎となめとこ山に住む熊たちの物語。


「ピーレットのやさいづくり」犬のピフと一緒にやさいを作ることにしたピーレット。まず土を耕し、種をまきます。雑草をとったり、、スェーデンの可愛い絵本です。

「サラダでげんき」病気のおかあさんが元気になるように、りっちゃんは美味しいサラダを作ることに挑戦。
キッチンの窓辺で野菜を切っているといろんな動物が来て「これを入れたらいいよ」とアドバイスをくれます。
​お読みくださってありがとうございました。
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