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​ 里山の自然に触れると、心が柔らかくなっていくのを感じます。​不思議です。
 その答えを探して物語の野山や森をお散歩してみたいと思います。
静かな森
恋の魔法とアーデンの森
 ~『お気に召すまま』~

 真実の恋とは?
 
『お気に召すまま』の恋人たちは、とにかく”一目惚れ”から恋が始まります。
”一目見ただけで恋いに落ちる”って、摩訶不思議な現象ですよね。

『知り合ってそんなにすぐ好きになるなんてこと、あるかなぁ。
出会ったとたんに恋してしまうなんて?、、、』
(『お気に召すまま』河合祥一郎訳)

恋に落ちた兄オリバーに、弟オーランドが言うセリフです。

でも、オーランド自身も宮廷で出会ったロザリンドとお互いに一目惚れしているのです。自分の一目惚れは棚に上げて、兄があっという間に恋に落ちたことを不思議がっているんです。

ホント自分のことを外から見るのって難しいですよね。

さて、恋人たちは宮殿を追われ、舞台をアーデンの森に移して、恋の騒動を繰り広げます。

森の羊飼いたちも過去の恋を思い出します。

「それじゃ、心から恋したことにはならないよ。恋ゆえにやらかしてしまった愚行を一つでも思い出せないなら、そりゃ恋したうちにはいらない。」
 
まことの恋とは!?について羊飼いたちが話しあっています。
”恋の愚行”が、必須条件のようです。
そんな思い出ありますか?

恋の魔法とは?その魔力とは?

”一目惚れ”は、まさに恋の魔法といえそうです!
その魔法に操られた人間が振る舞う奇妙で可笑しな行動が、”恋の愚行”と呼ばれるのでしょう。
本人が、夢中で真剣であればあるほど、まわりから見ると唐突で不思議な行動、、。

御前試合でロザリンドに初めて出会ったオーランドを見てみましょう。

「ありがとうも言えないのか」すっかりやられてしまった。
ここに立つのは抜け殻のでくの坊だ。

オーランドは、彼女に恋したあまり、気の利いた返事ができなかったことを失敗したと思いつめます。
やらかした!と焦っています。
そんなに大したことじゃなくても、強く感じてしまうのもまた恋の魔力です。オーランドは、自分が彼女にどう見えたかを、とても気にしています。
 
恋の魔力が、彼を迷いの沼へと誘っています。​

恋の魔法にかかれば、自分が相手からどう見えるかを意識したり、相手がどう感じているかを想像したり、言葉や行動の文脈を真剣に辿ったりしはじめるのです。

​う~ん!なんて恐ろしい!

恋は、自分を疑うきっかけを運んできます。

一目惚れという現象が、恋の魔法なら、その魔力は,自分の物差しを常に正しいと信じている人や目盛りの意味に無頓着な人を迷いの沼に突き落とす恐ろしい力を持っています。

​わぉ!

羊飼いたちは、愚行が一つも思い出せないならそれは本物の恋ではないといいます。

スマートでおしゃれな恋の振る舞いは、つまり自分の内から抜け出してはいないニセモノの恋なのです!

真実の恋に落ちて愚行に走るか、恋を避けて常人を装うか?
難しいところですね!

どうやらシェークスピアは、”恋の愚行”肯定派のようです。恋の騒動は、和解や結婚のうちに大団円の結末をむかえます。
彼は、迷走するすべての恋人たちに幸せな結末を用意しています。



​恋の魔法と森の関係

てんやわんやの恋の騒動は、森という異界を聖域として進みます。

もちろん恋は、いたるところではじまります。
でも、とまどいや疑いといった恋の迷いやあげくの果ての迷走や誤解といった”恋の騒動”は森という、日常から抜け出した場所がピッタリなのです。
『お気に召すまま』の舞台となるアーデンの森とは、どんなところでしょうか?
 
宮廷を追い出された元公爵という人物が、その森に逃れて暮らしているのでちょっと感想を聴いてみましょう。

『この昔ながらの暮らしは、飾り立てられた宮廷の生活よりずっと素晴らしいではないか。この森では、妬み深い宮廷よりずっと安心できるではないか。、、、(中略)、、、、木々の声を聴き、小川を本として読み、石に説教を聴き、すべてに善をみいだすのだ。』

なるほど今でいう田舎暮らしくらいのイメージでしょうか。悪くなさそうです。でも冬の暮らしは厳しいようです。

氷の牙をむいて、吹きすさぶ冬の木枯らしの厳しさが肌に喰い込み、寒さで縮み上がるほど、、

森は、自分の素直な気持ちや声に耳を傾けることができて、冬の厳しい自然が生き物としての息吹を思い出させてくれる場所といったところでしょうか。

恋の魔法と森は相性が良さそうです
まさに、落とし込まれた日常の自分を逃れることのできる場所。そこでは、どんなに激しい恋の錯乱も、自然の営みの一部として飲み込んでくれるのです。


​そんな森のありようを更にすすめて描いた作品があります。
『夏の夜の夢』は恋の魔力と森の生命力が美しく、奇妙で賑やかなハーモニーを奏でる物語です。
​日常を離れた気分転換にぴったり!でかけてみませんか?

​でもちょっとその前にtea break
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~tea break~​

里山散歩と銘打っているので、果たして、里山的なものがイギリスにあるかどうか、、気になるところです。結論としては、どうもあると言えるようです。​

薪をとったり、狩猟をしたり、木材を切り出したり、森はイギリスでも古くから人に利用されてきました。

ただ、イギリスには(スコットランドとウェールズの一部を覗いて)高い山はありません。丘陵地帯に森が広がり、なだらかな牧草地帯に小川や湿地と森、疎らな人家が点在する景色がイギリスの里山の景色といえそうです。








 
 
日本の山を中心としたイメージとは違いますが、牧草地の続きに森があり、羊飼いが登場するのも頷けます。

『くまのプーさん』の100エーカーの森の景色が、イギリスの里山の景色では?プーやピグレットは木の幹をくりぬいた家に住んでいますよね。
『いつまでも友達』は、恋の虫!に刺されたクリストファーが自分たちのことを忘れてしまうのではないかと心配するお話です。
 
​恋の虫は蛍に似た黄色く光る虫です。
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恋の森を散歩~『真夏の夜の夢~』
装飾されたアントラー
​妖精のパックが、惚れ薬!を挿す相手を間違えたことから、恋人たちが巻き込まれる騒動『夏の夜の夢』、その舞台となる森は妖精の王と女王が住む美しく妖しい森です。

​ まず妖精の女王の寝台はこんな具合。
​ 『麝香草の花が咲き乱れ、桜草が伸び、菫(すみれ)は風に吹かれ、そのうえに、甘い香りの忍冬(スイカズラ)、野ばら、麝香いばらが天蓋のように覆いかぶさっている、、』
​(新潮文庫 福田訳)
​素敵ですよね。こんな花の褥で眠ったらいったいどんな幸せな夢をみるのでしょうか、、
​妖精の王は、女王と諍いのすえ、妖精のパックに惚れ薬を使って女王を陥れるよう命じます、、
​次は、”惚れ薬”を探しに行ってみましょう。
​『キューピットのが、冷たい月とこの地球の間を飛びまわり、矢をつがえて何かをねらっている。、、恋の矢は勢いよく弓弦を離れた。、、そこには小さな白い花があって、それまで乳のように真白だったのが、恋の矢傷を受けてたちまちに唐紅に変じてしまった。ー娘たちはその花を「浮気草」と呼んでいる。』
​里山や森の野草は、古代から様々な薬草として利用されてきたことを思い出しますね。​​
​キューピットの矢がそれて落ちたところに咲いていた花に溜まる露が、惚れ薬なわけですが、その効き目は抜群です。
​妖精の王は言い放ちます。
『キューピットの​矢に射抜かれた紫の花の滴だ、瞳の底にしみとおるがよい。醒めて女を見るときは、その面、夜空にかかる金星のごとく、いよいよ光り輝くよう。目が覚めて、かたわらに女がいたならば、それこそ、おのが恋の渇きをいやすものと知るがよい。』

惚れ薬を挿された妖精の女王が、恋の相手に用意するご馳走のメニューがこちらです。

、、召し上がりものには、杏や木苺、紫の葡萄に緑の無花果、それに桑の実。それから花蜂の巣から蜜の袋をそっと取ってきておくれ。、、

美味しそう、、

いかがでしたか。
物語は惚れ薬のせいで、恋の相手を間違う顛末から大団円までを、森や妖精の景色と真実味たっぷりの会話でテンポよく進みます。

里山散歩にぴったりです。
時折、​心をえぐる、ぎくりとすようなセリフも出てきます、そんな時は森で獣に出会ったとドキドキしながら通り過ぎてくださいね。
お読みいただき、ありがとうございました。

自分の殻をやぶって、自分を外からみるきっかけともなる恋の魔法。
思春期にたくさん恋するのはいいことに違いありません。

自分の思春期を振り返ると、三国志の孔明にドキドキしたり、赤毛のアンシリーズのギルバートとアン、クリスティの「青列車」、古典の落窪姫を読んで満足いていた読書少女だったかな、、

​シェークスピアを読んだあとでは、ちょっと情けなく感じます。
受験が恋と重なって、、という武勇伝をお持ちの方がうらやましいです。

次回は、春の野山の野草、畑のとれたて野菜を使ったお惣菜、今お味噌の美味しさにハマってるのでお味噌スィーツにも挑戦して載せたいです。
それでは、また~!
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